Taejunomics

            政治、経済、社会、哲学、芸術、文学、スポーツ、マイクロファイナンス、教育などなど、徒然なるままに書き綴ります。 ※お初の方はカテゴリー欄の「Taejunomicsについて」、をご覧ください。
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グルーポンの本質
GROUPON.jpg正直言って、僕はグルーポンがなんなのかよく分からなかったし、「単にクーポンがウェブになったことの何がすごいんだろう」ぐらいに思っていた。それは確かに、既存のクーポンビジネスに取って代わるかもしれないし、そこには確かに意味はあるだろう。けれど、そんなに大騒ぎするほどのことなのだろうかと。

昨日グルーポンで働いている方とディスカッションをして、初めてこのビジネスの本質を理解することができたとともに、己の不明を恥じた。これが分かると、なぜグルーポンやポンパレが国内で採算度外視(のように見える)競争をしながらもシェア確保に躍起になっているのかが理解できる気がする。

下記に書く内容は、僕の勝手な理解であって、グルーポンの公式見解ではないことを、(言うまでもないと思うけれど)予め断っておく。


グルーポンの本質は、小売店の価格設定を最適化して利益を最大化するためのチャネルを提供することにある。これを支える技術的背景には、情報処理技術の目覚しい進歩がある。


価格設定の最適化

例えば、経営がしっかりしていないホテルの第一の特徴は、価格設定が硬直的なことにある。言い換えると、こういったホテルは平日も休日も全く同じ価格でオファーをしている。例えば、あるホテルが平日も休日も3万円で部屋を提供しているとしよう。これは、平日に泊まるにしては高すぎて、休日に泊まるにしては安い設定だとすると、このホテルは土日だけ稼働率が100%で、平日は稼働せず、一週間の一部屋あたり売上は週末の2日×3万円=6万円だけになる。

ホテルに投資をした場合に、ホテルのアセットマネージャーが真っ先に手をつけるところはここだ。休日の需給と平日の需給は異なっており、それに併せて価格を最適な水準に設定することができれば、空室率は減り、利益を高めることができる。たとえば、上の例であれば、休日を4万円に設定して、平日を1万円に設定するなど、様々な試行錯誤をして価格を調整することにより一部屋あたりの売上を高めることができる(この計算では単純化のためにコスト部分の計算を無視している)。

大手のホテルのほとんどは、このような最適な価格設計をするシステムを導入している。システムで行うことは、過去のデータを基に計量モデルを使って最適な価格を割り出すということだ。でも、このシステムは結構高くつく。単価が安いビジネス、たとえば単価千円くらいで量をたくさん売るビジネスでは、計算しなければいけないデータが膨大になることもあり、導入することができなかった。



情報処理技術の進歩がもたらした単価設定革命

けれど、ホテルの単価設定のシステムが高価であるのは過去の話で、これは早晩変わっていくだろう。その背景には情報処理技術の進歩がある。

97年のPCに比べて、2010年のPCは175倍の情報処理技術を有している。データの計算を行うシステムにかかる価格はどんどん減っていく。単価が安いビジネスであっても、膨大なデータをノートPC一つで計量処理して最適な単価設定を出来るようになる。

けれど、このような単価設定を行えるようになったとしても、この単価設定をタイムリーに知らせる必要がある。毎日毎日計量データに基づいて適切な価格付けをしたとしても、だれもそのことを知らなかったら効果は限定的になる。また、紙のクーポンであれば、それを刷るだけですでに時間が経ってしまい、適切な価格付けが無駄になる可能性がある。



最適化された単価を知らせるチャネルとしてのグルーポン

そこでグルーポンに代表されるフラッシュマーケティングだ。グルーポンは、小売店が設定した単価をインターネットを通じて即時に潜在的な消費者に知らせることができる。情報技術が発達した時代に小売店が行うことができる価格設定の最適化の最後のピースを、グルーポンが埋めることになる。

このビジネスにおいては、プラットフォームを握れるかどうかで優勝劣敗が確実につくことになる。例えば、一度グルーポンが小売店の大半を獲得することに成功すれば、新しくフラッシュマーケティングを行おうとする小売店は他の会社を選ばず、グルーポンを選ぶだろう。こうして、初期的な優劣が後にとんでもない差につながることになる。

だからこそ、今国内では、リクルートを母体とするポンパレと、グルーポン・ジャパンが熾烈なシェア争いを行っている。



100歩離れてフラッシュマーケティングを見ると

情報技術の進歩は、モノの時間を最適化する。在庫はモノの時間を非効率に使っていることと同義になる。特に、ホテルやゴルフ場などの「稼働率ビジネス」においてはこのことは特に当てはまる。(逆に、サプライチェーンにおける在庫はゼロに近づけばよいという単純な話でもない。今回の震災でいくつかの部品が供給不足に陥って、他の製品の生産がストップしそうになったことからもわかるように。)

モノの時間を最適化するためのレバーは価格だ。その価格設定を、この時代に併せて最適化して売るというという行為を促進する仕組みがフラッシュマーケティングの本質のように、個人的には思われる。


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東電は国有化するべき
僕は東電は国有化するべきだと思いますし、もし東電全体を国有化できないとしても、原子力発電所は国有化するべきなのではないかと思います。

今回の事件の背景には、公的な性格をもつ事業体が、私企業として株式市場に上場しているという矛盾があったのだと思います。

ファイナンス理論では、企業はリスク分散をするべきでなく、リスクをとるべき存在だと考えます。なぜなら、企業がリスク分散を通じてリスクを下げなくても、投資家は自分の投資対象を分散することによりリスク分散を実現することができるためです。企業の事業リスク分散をもたらす事業の多角化は基本的に市場からは評価されず、多角化企業の株価はそうでない企業に比べ低くなります。これをコングロマリット・ディスカウントといいます。(とはいえ、企業の破綻には必要以上のコストが生じるため、一定程度のリスク管理は正当化されると考えられています。)歴史的にも、株式会社は人々が有限責任という仕組みを用いてリスクをとりやすくするために作られたものです。

東京電力は数年前の内部調査で、今後50年以内に今回のような大震災が起こる確率を0.1%と予想していたそうです。その時の損失が10兆円だとしても、0.1%でしか生じないのなら、損失の期待値は100億円にしかなりません。これはしかも、50年間における損失の期待値です。そのような、0.1%の確率でしか生じない災害に対処するために大きなコストをかける必要があるとしたら、私企業はその災害が生じるリスクを受け入れることを選ぶ場合が多いように思われます。

また、株式会社であると、非常事態が生じたときにも利益度外視の緊急対応をしにくくなります。一基数千億円する原子炉に海水を注ぎ全てを再利用不可にするという意思決定は、もし原子力発電所の所有者が国であれば、現在よりも早く行われたのではないかと思います。

こんなことに鑑みると、問題の一つの本質は、東電が公的な性格を有しているにもかかわらず、上場している私企業である点にあると僕は考えます。


もちろん、企業の国有化に問題がないわけではありません。国有化は多くの場合効率性を奪い、その企業の競争力を失わせる可能性があります。

だから、こういうときに考えるべきは、リスクと便益のバランスだと思います。個人的には災害が生じたときの外部への影響を考えると、せめて原発だけでも国有化するべきだったのではないかと感じます。そして、0.1%の確率であっても無視せずに、多少のコストを負担してでも可能なかぎりリスクをゼロにする努力をすれば良かったのではないかと考えます。


問題が過ぎ去ったあとで、ミネルバの梟よろしくこんな話をするのは比較的簡単なわけですが、これを期に、いくつかの公的性格を有する企業の国有化については議論がされてもよいのではないかと思います。性質は違えど、金融システムについても同じような議論ができるのかもしれません。


雪だるま
Snowball

ウォーレン・バフェットが唯一オーソライズしている伝記。バフェットの父の話に始まり、幼少の頃から現代にいたるまでのウォーレン・バフェットの足跡をたどることのできる一冊です。

投資におけるマインドセット、投資のスタイル、キャリアについていくつか書かれていたので紹介します。


マインドセット

バフェットは金に愛情を注ぎ、自分の確固たる判断基準をもっていたようです。
 
バフェットはとにかく金を愛していた、と著者は書きます。ただ、バフェットの暮らし向きは稼いでいたお金に比べると質素で、お金に付随する名声や財産を愛しているのではないようです。お金に対する純愛というか、不思議な感覚のお金に対する愛情をバフェットの生き方からは感じました。

また、バフェットはInner Scorecardを常にもって判断をしていたといいます。Inner Scorecardは、自分の価値観に照らし合わせた判断基準のようなもので、これと対置されるのが、世間の人々の価値観に照らし合わせた判断基準であるOuter Scorecardです。
「自分が正しいが周囲から間違っているとされることと、自分が間違っているが周囲から正しいとされることのどちらを選ぶか」という問いは、自分の判断基準がInner Scorecardに拠っているかどうかを判断するに役立ちます。



投資スタイル

初期においてバフェットは、“Cigar butt”すなわち吸殻のような「まだ吸えるのに打ち捨てられている」株式への投資を行いました。必要以上に価格が低くなっている株式を見つけ、それらに対する投資を実施したわけです。たしかにこういった株式は市場において人々の関心が低いため、頻繁に取引もされず、掘り出し物が見つかる可能性は相対的には高いのかもしれません。

それが中期からはもう少し高度化して、会社の数的な側面だけでなく(それは誰でもできるから)、会社の質的な側面に焦点を当てた投資を行うようになります。

この質的な判断についてもう少し話すと、バフェットは次のような場合には投資はしないそうです:
・その会社の技術が自分には理解不能であり、かつ投資の意思決定に重要な影響をおよぼすものである場合
・その会社が工場閉鎖、解雇などの人事の問題を抱えている場合

会社のビジネスの質的側面を考えた投資においては、すごく抽象的にいうと「いい会社」を買うわけなのですが、これは誰にでもできるスタイルではないように感じられます。この会社の質的側面についての判断は、バフェットの異常なまでの学習量に支えられている側面があると思います。投資に関係のあるほとんどの新聞・雑誌を読み、読書量も異常なバフェットだからこそ、それら知識を自分の中で消化して、会社のビジネスの質についての判断までできるようになるのでしょう。(とはいえ、同じように相当勉強している人は業界には数多くいるので、勉強量だけでは「なぜバフェットが特別なのか」という問いに対する答えは見つからないのですが。



キャリア

職場の選択においても、投資においても、バフェットの頭にあるのは複利的な考え方です。本書のタイトルであるSnowballはそのことを意味しています。

複利







この簡単なテーブルからも明らかなように、自分の能力やネットワーク、富を高めるためには、二つの基本的な原則があるとバフェットは説きます。

ひとつは、正しい場所にいること。仕事であれば、一番尊敬できる人のいる場所で働くこと。例えば、自分を高められる職場にいるのか否かは、個人の成長に決定的な影響を及ぼします。(数値化が適切かはさておき)毎年20%の率で成長できる環境にいる人と、全く成長しない環境にいる人の間では、50年で9000倍の差がつくことになります。

もうひとつは、早く始めること。バフェットは、幼少の頃からビジネスに興味をもち、お金を稼ぐこと、人とのつながりを作ることをはじめていました。成長のスピードが同じであれば、それを10年先に始めた人と今始めた人とでは、取り返しのつかない差が生じることになります。



全般的に、投資というより、生き方の側面で学ぶことのあった本でした。冗長でバフェットの個人的な側面に興味のない人にとっては、最初から最後まで通して読むのはかなりきついと思います。しかし、英語版にはかなりよくできた索引があるので、それを使って知りたい項目を調べると効率もよいと思います。

資本主義の王
世界で最も成功しているPEファーム、Blackstoneとその共同経営者Schwarzmanについて書いた”King of Capital"。Private Equityの仕事は、King of Capitalismとよばれることも多いが、本書のタイトルもそこに由来しているのかもしれない。

非常に読み応えがあり、学ぶところが多かった。いくつか興味深かった点を列挙しておこう。
  

 
 
組織づくり
 
・共同経営者には補完者
正直で、規律があり、人望厚く、熟慮タイプのPetersonと、貪欲で、エネルギッシュで、勘が異常に鋭いSchwarzmanのタッグでBlackstoneは創業された。ディールを作るときも、相手企業の重役室のドアを開けるまではPetersonの仕事、その後のディールクローズまではSchwarzmanの仕事。役割分担がしっかり出来ていたので、多少の意見の違いがあっても、それが組織を揺るがす不和にはつながりにくかった。
 
・能力ある人の採用、フェアな態度
自分以上の人間だけを雇った。Juniorの人間に対しても傾聴する姿勢を失わなかった。部下に対しても、自分に対する以上の要求はしなかった(その要求が非常に高くはあったが)。フェア。
 
・意思決定権を独占
特に初期においては、意思決定権を二人の共同経営者で独占するようにした(二人のLehman時代の「船頭多くして船山のぼる」の経験から。Petersonは社内人事制度の改正とそれによる混乱から、LehmanのCEOを自ら退いていた)。
 
 
 
事業展開
 
・後発型
他社に先んじて何かを行うことはあまり多くない。PEを始めたのも、KKRらから10年以上遅れての1985年。不動産投資も他社にかなり遅れて始めた。投資として成立するかを見極めてから参入してもキャッチアップできるということの持つImplicationは大きいと思う。
 
・MAアドバイザリー
最初の仕事をMAアドバイザリーから始めた。安全なFeeビジネスである上に、ソーシングにも役立つため。(LIPの活動においても同様で、今僕達が目指しているのは、こういったファンドの投資先のDD業務で世界レベルになること。)
 
・Affiliates制
様々なアセットクラスに特化した会社を傘下においた。
超過リターンの源泉は、マクロ・ミクロレベルでの、市場のビューとのギャップにある。そのギャップに基づいて得られるリターンを最大化するためには、ロングオンリー以外の投資手法も可能であることが望ましかった。
 
具体的な子会社:
(1)不動産投資部門(マーケットサイクルへのベット)
(2)ヘッジファンド部門(Short sellingが可能なため、ダウントレンドでも利益得られる。またIPO時にバイアウト部門とコラボして利益をさらに高められる)
(3)債券投資部門(Mezz投資も可能となる。この部門が後のBlackRock)
など。
 
 
 
投資のスタイル

・Loyalty to Management
自分たちの位置づけを”an operating problem solver “(Peterson)として事業展開。
決して対象会社とは敵対的にならず、常にLoyalty to managementを全面に出した。White-night案件も多い。オペレーションについても過度に入ることはせず、起業家精神あふれるCEOをサポートするのがPEの仕事と理解している。本書では、オペレーションに入りこんでいったファンドの失敗にも言及されていた。
 
・危機対応能力
投資先が危機に瀕しても、東奔西走して会社を存命させた案件多数。
 
・Discipline
規律が最も利いている会社。皆が酔っ払って赤信号を渡ろうとしているときにでもストップすることができる(それは一部はSchwarzmanの勘によるものでもあるのだろうけれど)。本書に紹介されていた、次の二つの言葉が印象的。
“First, don’t pay too much when you’re buying cyclicals. Second, don’t have ambitious turnaround expectations for medium-sized companies. Don’t expect to reinvent them. Third, if an investment calls for reengineering operations, plan in consultation with seasoned executives and consultants knowledgeable enough to judge if the plan will fly.”
 
“We’re not going to be investing, we’re going to be lowering the prices, we’re going to be changing the kinds of companies that we’re going to buy, because when everything feels good and you can’t see any problems, historically you’ve been near a peak.”
 
実際、Blackstoneがマーケット過熱時に手を出して失敗した案件は、他社に比べて少ない。
 
 
・LBOの先
“Leveraged” Buyoutは主流ではなくなってきている。Blackstoneの00年代半ばの成功ディールの多くはGrowth Playによるもの。ビジネスのあり方の変革をサポートした案件で大きなゲインを出している。
 
 
 
その他、面白かったこと
・Lehmanの元CEOとパートナーの二人で始めても、ファンドレイジングには苦労した。ファンドレイジングに勢いをもたらしたのは日興の$100MMの出資だったのは本当に偶然のもの。

・Blackstoneという名称の由来は、Schwarzがドイツ語でBlack、Peterがギリシャ語でStoneだったことにある。(不勉強ではじめて知りました)
 
 
 
FREE
FREE.jpgFREE

だいぶ前に読んだまままとめていなかったので、備忘録代わり。
アトム経済(価格は上がり続ける)からビット経済(価格は下がり続ける)への以降が起こりつつあり、デジタルのものはタダになると本書は主張する。無料のルールとして、著者は次の10点を挙げる:
1.デジタルのものは遅かれ早かれ無料になる
2.アトムも無料に近づくが、ビットほどではない
3.フリーへの流れは止まらない
4.フリーからもお金儲けはできる
5.市場を再評価する(市場のどこで儲けるか、の視点を変えてみる)
6.真っ先にゼロにする(フリーにするのは先行者が圧倒的に有利)
7.遅かれ早かれフリーと競いあうことになる (もはや特定分野ではフリーは当たり前のことになり、差別化戦略にはならない)
8.無駄を受け入れる(多少のコストをきにしない)
9.フリーを導入すると、価値のレイヤーが変化する(元来潤沢と思われていたものに稀少性がつくようになる)
10.希少なものではなく、潤沢なものを管理しよう

本書で取り上げられるフリーのタイプには次のようなものがある。
・直接的内部補助:例:二枚目がタダになるチケット
・三者間市場:メディアがタダで情報を流し、広告料収入を得る
・フリーミアム:プレミアム版の無料版(アマゾン)
・非貨幣市場:贈与経済、Wikipediaなど

今後多くのものがフリーとの闘いを余儀なくされると本書は主張する。たとえば、Yahooのメールはある時期までは10MBまでが無料だったが、gmailとの競争で無制限無料にせざるを得なくなった。

フリーにおけるビジネスモデルは、サービスの大部分を無料にして、一部で大儲けするモデルだ。Googleのアドワーズなどがまさにそれで、無料のGmailのユーザーが見る広告からGoogleは利益を得ている。

フリーにすることは単なる慈善ではなくビジネス目的だ。例えば、ある種のサービスを無料にすることにより、次のような効果を期待できる。
・有料物の購入の候補を拡大(100人×10%購入より、100,000人×1%購入の方がよい)
・先行者であれば、自社のブランディングが可能。少し前に、ライフネット生命の岩瀬大輔さんの著書「生命保険のカラクリ」が電子書籍化したが、岩瀬さんとライフネットがここから得た便益は非常に大きいと思う。


本書の内容は、普段フリー経済に接している人にとっては自明のことだと思う。そのような人に対して著者ははじめからポジションをとっている。

「“まちがっている”と“自明のことだ”というふたつの意見に分かれる話題は、どんなものであれ、いいテーマに違いない。」


新興国のメガバンク
先週のEconomistのSpecial Reportは、新興国の銀行業。

EmargingBank1.gif
文章を読めない人への銀行サービスやモバイルバンキングなど、現地のニーズに沿ったサービスを展開している新興国の銀行の規模はすでに相当なものになっており、成長著しい。

現時点でも、新興国銀行の利益、Tier-1 capital、配当、時価総額はそれぞれ、世界の銀行の25% ~50%を占めている。金融危機後、この傾向はさらに顕著になった。これら新興国の銀行は、現地では成長のエンジンとみなされていて、先進国における評価とは大きく異なる。





もはや、新興国の銀行はメガバンクだ。それは次の表からも明らかだ。2010年4月における中国工商銀行の時価総額は2,260億ドルで、Citiの二倍弱になる。

EmargingBank2.gif現時点でもこれら新興国銀行の資本は厚いが、さらなる成長、今後の不良債権対応などのために、エマージング銀行はより多くの資本が必要となる。

新興国経済が必要としているのは、革新的な私的銀行と国有銀行であり、外資銀行へのニーズは多くはない。その数少ない外資銀行としてすでに先鞭をつけているCitiやStandard Charteredの間に、他の銀行が食い込むのは容易ではない。

バンキング業界のグローバリゼーションは一時停止になっているとEconomistは主張する。上述のように先進国の銀行が新興国に入る余地はほとんどないが、現状のキャパシティ的にも国有企業という性質的にも、エマージングの銀行が先進国に踏み込むのも難しい。エマージング銀行は近隣の金融機関の買収を行い、それがどう機能するか試験している段階だ。

近いうちに生じうる海外進出は、各国毎のエッジを活かした分野の輸出になるだろう(例:インドなら技術、ブラジルならIBD業務)。

じゃあ、日本の銀行業がエッジを活かせる分野は何か、という話を今日はしていたのだけれど、これだろう、という結論になった:
http://chainmail.seesaa.net/article/63241060.html
金融機関の弁明
Goldman SachsのSECとのやりとりは先日のEconomistを読む会でもかなり白熱した議論となりました。事実関係は公開情報通りだとしても、法的にクロかシロかというのは僕にはよく分からないことはあるので、論点として挙がった二点について、理論よりのコメントを。


1.損をする前提で儲かる人がいるCDSはババ抜き。こんなギャンブルみたいな商品は必要なのか。

必要だと思います。ババ抜きというのはペイオフだけに着目したものでしかないのですが、重要なのは、取引によって参加者の期待効用(実現値でないことに注意)が増大しうるという点にあります。そもそも論として、事前に損をするとわかっている人が取引を行うわけはない、という点に注意するべきかもしれません。

ここで、公平性の観点から重要なことは、取引参加の意思決定が可能な限り情報の非対称性がない状況で行われることだと思います。だから金融商品情報のディスクロージャーはかなり厳しい基準で行われています。

また、デリバティブは投機目的だけではなく、リスクヘッジ目的で用いられています。保険だってある意味でオプションです。これらデリバティブは、リスク許容度の異なる人々が個々人にとって適切なリスクをとることを容易にします。取引を禁止すると、リスクをもっと取れる人が取れなくなり、リスクを取りたくない人も取らざるを得なくなり、結果として経済全体の効用は低下します。



2.金融業界が勝手にギャンブルをやるのは良いけれど、外の業界に迷惑をかけるのは間違っているのではないか。

完全には賛同しかねます。まず、バブルのような状況が起こる時期には、ギャンブルに参加しているのは金融機関だけではありません。多くの事業会社も自らの財務戦略と称してギャンブルに参加していました。それなのに責任を全て金融機関に帰するのはどうかと思うことがあります。

分からないモノには手を出さなければよい。これは別に金融に限った話でなく、すべての企業活動について言えることだと思います。一部の人々は、日本の金融機関が痛手を受けなかったのは、「賢かったからではなく、商品を分かっていなかったから」と揶揄していましたが、もしそれが本当だとしても、分からないモノに手をださないというのは立派な知恵だと思います。


ただ、一方で、金融機関にインフラの側面があり、ギャンブルを行った金融機関のインフラ側面救済のために大量の公的資金が流入するのは問題だと僕も思います。

これについて、僕はボルカーの提案に賛成で、金融機関についてインフラの側面がある部門とリスクテイクを行う部門を分離することである程度問題は解決されるのではないかと思っています。ヘッジファンドを社内で持っておいて、儲かったら自分たちのもの、負けたら「我々はインフラの役割を果たしているので救済するべきだ」というのはムシの良い話です。

もちろん、この切り分けが困難な部門も存在し、判断基準が恣意的にならざるを得ないというのは事実だと思います。それでも、HFやPE部門など、明らかな部署だけでも切り離すのが良いのではないかとは思います。




アメリカ経済の構造変化
アメリカの経済構造の変化

先週のEconomistのSpecial Reportはアメリカの経済の構造変化のお話。
近年においてアメリカ国民の経済活動を特徴付けるものは高い負債比率と消費性向でした。しかし、最近はこの負債を下げようとする動きがあるとともに、貯蓄が増加しているそうです。

このエントリーでは、まとめも兼ねて、アメリカが負債・消費大国になった背景と現在の揺り戻しの要因、そして、経済回復のための輸出増大の必要について書こうと思います。


1.負債・消費大国は文化だけでつくられたわけではない
1980年代初頭においては、GDPに対して消費が占める割合は67%程でした。その後も順調に増加し、ピークの2005年には75%に達します。1935年から1944年に生まれた人々の45歳時の貯蓄性向が30%だったのに対し、55年から64年に生まれた人々のそれは10%にしか過ぎません。

多くのアメリカ人が多額の借金をし消費活動を旺盛に行うことについて、少なくない人が文化的要因を理由として挙げてきました。しかし、文化的要素だけではこの25年間の推移は十分に説明できないかもしれません。民族性のようなものは、世紀単位で少しずつ変わるもので、四半世紀で変わるものとは考えにくいからです。

Economistが指摘する消費と負債増大の要因は三つです。一つは、80年代以降続いてきた好景気(多少の変動はあったものの、今回の金融危機ほどのものはなかった)が人々の貯蓄マインドを下げたこと。次に、規制緩和に伴う種々の金融商品の開発(例えばサブプライムローン)が、個人を過大な借入へと駆り立てたこと。最後に、当時のアメリカではすでにある程度富の蓄積がされているため、追加的に貯蓄をする動機が日本などに国に比べて高くなかったこと。

ある状態が生じている理由を文化や嗜好に求めるのは最後の手段であるべきで、可能な限り客観的な状況に要因を見出そうとする姿勢は非常に重要だと思います。



2.揺り戻しがはじまる
Economistは最近のいくつかの事例とともにこれら動きを紹介していますが、このSpecial
Reportには構造変化についてのデータのバックアップが掲載されていないようです。この構造変化がつい最近の出来事であるため、まだ統計には出てきていないのかもしれまえん。

これまでのアメリカ国民の高い消費性向がこれ以上高まることは現実的でなく、危機の経験後に一定水準まで下がるのはある程度当然の気がします。また、負債の多くが不動産のバブルを背景としていたことを考えると、これが縮小するのも間違いないと思われます。(ちなみに、不動産バブルとその崩壊に伴い、州の間で人々の移動が起こっているそうです)



3.成長のための輸出増強
国内の消費の回復が緩やかなものになると予想される現状において、アメリカが経済成長を達成するためには、輸出を拡大するのが一番現実的な策だと思います。

日本とアメリカのGDPにおける輸出の割合は10%強に過ぎず、これはドイツ40%、イギリス28%に対し、非常に低い数字です(ただし、ドイツとイギリスがEUの経済圏であることは多少考慮する必要がありそうです)。やりようによっては、輸出主導による経済成長は達成しそうに思えます。

さらに、資源価格の低下と国内のガス資源の開発は、エネルギー資源の輸入(これが貿易赤字の6割を占める)を下げる要因として働く可能性があります。さらに、技術進歩がもたらす効率化は、さらに資源への需要を下げるかもしれません。一番身近な例はプリウスですが、他にも超電導での送電など、様々なものが考えられます。

アメリカのエマージングマーケットへの輸出は、2009年に先進国に対するそれを上回りました。金融危機で先進国が受けた打撃を考えると、今後もエマージングマーケット向けの輸出を拡大する必要がありそうでう。先進国がエマージングマーケットに対して輸出できるものは、高い教育を背景にした知識集約的な商品が主なものになります。IT関連事業やサービスなどがそれにあたるでしょう。

アメリカの経済を牽引する事業をさらに育成するために今後推進するべきことをEconomistは指摘します。

一つ目は、新規技術への投資資金の拡大。イノベーションを育てるためには、人材と同じくらいに資金が必要です。2009年のベンチャーキャピタルのファンドレイズ金額は150億ドルで、ここ数年を大きく下回っています(それでも大きいですが)。

つぎに、政府が特定の事業に対して税制優遇や補助金等、成長促進のための政策をとること。今までは特定の産業に特化するタイプの助成が多かったと思いますが、今後必要なものはポートフォリオ的なアプローチで、いくつかの望ましそうな事業に分散して助成するのが好ましいとEconomistは説きます。

三つ目は、自由貿易のルールを守ること。以前行ったような、中国産タイヤへの関税は避けないといけません。

最後は、貨幣の安定。ドルは未だに基軸通貨であるがゆえに、実体経済の動き以外の要因によってもレートが変動してしまう問題があります。それを安定させることは輸出を後押しする要因になります。中国元の引き上げに対する圧力も必要かもしれません。


プライシングカーネル計算シート
野口先生のファイナンス基礎受講生の試験の参考になればと思い、簡単なプライシングカーネル(Stochastic Discount Facctor, SDF)の計算シートを作成しました。 下記からダウンロードできます。

http://cid-af65f8f6750f13c4.skydrive.live.com/browse.aspx/.Public?uc=1

状態のペイオフが悪いほど、その状態のプライシングカーネル(状態証券価格といっても同値)は高くなります。これが、プライシングカーネルが「経済の不快度」とも云われているゆえんでもあります。


授業の復習はこちらから
http://stjofonekorea.blog6.fc2.com/blog-category-33.html
なぜ会社は株主価値を最大化するべきなのか
TiroleのThe Theory of Corporate Financeは契約理論を用いてコーポレートファイナンスの諸問題を説いた極上のテキストです。本書は1,2章までは簡単なイントロダクションで、3章以降で用いられる本書のモデルの導入になっています。1章のうち多くの人の引き合いに出されるのが、1.8 "Shareholder Value or Stakeholder Society?"です(Supplemental Sectionでも論じています)。

このセクションにおける結論は、「会社が株主価値の最大化のために事業を行い、他のステークホルダーの利益は契約や流動的な労働市場を通じて保護するのが、不完全ながらも最善である」、というものです。これは、しばしば政治的意思決定の方法において民主主義が最悪でありながらも最善であるという結論に類似しています。



1.ステークホルダー主義の問題点

ここで、ステークホルダー(全利害関係者)主義とは、①組織運営が広いミッションをもち、②全ての利害関係者により会社がコントロールされるもの、とします。

このステークホルダー主義の問題点は、意思決定の非効率、ガバナンスの悪化にあり、それらに対しては資本市場を通じた制裁が与えられることになります。


・意思決定の非効率
船頭多くして船山のぼる、という言葉がありますが、全利害関係者が等しく企業に対してコントロール権を持つようになると、企業が意思決定を迅速に行い、事業を推進することが非常に困難になります。ジョイント・ベンチャーにおいて得られる利益が、単独事業によるそれよりも低いのは、この利害の一致が非常に難しいためですが、そうであれば、株主・債権者・労働者・その他利害関係者の利害を一致させることの難しさは推してはかることができます。利害を一致させるために費やされる人的・金銭的資源は相当なものになることでしょう。


・ガバナンスの悪化
企業経営者は私的便益を最大化させようとする誘引を持っています。サボる、接待の名の下に会社のお金を自らの娯楽に用いるなど、その形態は様々です。そうでない経営者もいるかもしれませんが、ここで話しているのは、より一般的な、人間は放っておけば自らの利益を最大化しようとするという事実で、いくつかの例外をもって否認出来る類のものではありません。

この様な私的便益追求の動機を持つ経営陣を、企業価値の最大化に向けて働かせるためには、明確な評価基準とそれに整合的な報酬契約が不可欠になります。Tiroleの本の大半は、経営陣を正しく動機づける条件(インセンティヴ両立条件)と、外部の資金調達を可能とする条件(貸手の参加条件)を成立させるような契約モデルの記述に費やされています。(このモデルが最高にクールなのですが、話が逸れるので省きます)

しかし、ステークホルダー主義が跋扈すると、経営陣を正しく動機づけるための評価基準を設定することが著しく困難になります。なぜなら、いわゆるステークホルダーの便益なるものは測定が非常に困難であり(株主利益であれば、損益計算書ですぐに分かる)、それは市場で明示的に評価されないためです。


・資本市場による制裁
株式市場は、こういった意思決定の非効率や悪化したガバナンスを、会社にかかるコストとみなし、そのコストを株価に織り込むために売買が行われる結果、株価が下落することになります。また、このコストは当然ながら企業利益を圧迫し倒産確率を高めるために、外部からの資金調達を必要以上に困難にさせます。かくして、ステークホルダー主義を掲げると、結果として利害関係者全員が保有することになる取り分が減少することになります。



2.株主価値重視は最高ではなく最善
 
この議論は決して株主以外の利害関係者の利益、たとえば、従業員、共同体、債権者の利益を無視するべきだ、というものではありません。Tiroleら多くの経済学者らは、その目的が誤っているということではなく、その目的を達成するためにステークホルダー主義を明示的に企業の目標とすることが誤っていると主張しているのです。利害関係者の利益を同時に追求することは上述の理由で企業価値を減じ、結果として全ての利害関係者が損失を被る可能性が高いのです。

現在のところは、株主の価値を最大化にするのを企業の目的としつつ、その他の利害関係者の利益は契約や市場構造の是正によって保護するのがとりうる選択肢の中で最善だろうというのが、本書をはじめとする多くの本が主張していることです。(事実Tiroleも、Shareholder-value maximazation is, of course, very much a second-best mandateと説いています)

利害関係者保護のための契約や市場については、例えば次のようなものが挙げられます:

・債権者の利益保護のための契約:
コベナンツ(財務制限条項)や、社債の株式への転換権などの株式価値と連動した資金調達の仕組みにより、債権者の利益を損ねないようにする。これがしっかりと機能するためには、当然ながら法制度が整備されていることが非常に重要

・従業員保護のための市場:
流動的な労働市場の提供により、解雇された労働者のかかる負担を減らす(労働市場の流動化の程度が低い場合には、レイオフの外部性は非常に大きくなるため、株主至上主義の是非について問題となりやすい。これは、ヨーロッパや日本において株主価値最大化がよく批判されることと整合的です)

(このことからも分かるように、利害関係者保護をも目的とした株主価値最大化が正当化できるか否かは、国家の発展段階にも依存しています)


ちなみに、時に見落とされがちですが、利害関係者の利益追求は、株主価値最大化の文脈から正当化出来ることもすくなくありません。この好例は従業員教育です。従業員へ十分なトレーニングプログラムを提供することは、従業員の利益となるばかりでなく、会社の長期的な業績を高めるために株式価値最大化にも資するものです。


反対・賛成の是非はさておき、こういった点を踏まえて政策や社会起業家の議論がなされると、もう少し話が噛みあって実りあるものになるのかなあ、と思います。
 
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