Taejunomics

            政治、経済、社会、哲学、芸術、文学、スポーツ、マイクロファイナンス、教育などなど、徒然なるままに書き綴ります。 ※お初の方はカテゴリー欄の「Taejunomicsについて」、をご覧ください。
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なぜ会社は株主価値を最大化するべきなのか
TiroleのThe Theory of Corporate Financeは契約理論を用いてコーポレートファイナンスの諸問題を説いた極上のテキストです。本書は1,2章までは簡単なイントロダクションで、3章以降で用いられる本書のモデルの導入になっています。1章のうち多くの人の引き合いに出されるのが、1.8 "Shareholder Value or Stakeholder Society?"です(Supplemental Sectionでも論じています)。

このセクションにおける結論は、「会社が株主価値の最大化のために事業を行い、他のステークホルダーの利益は契約や流動的な労働市場を通じて保護するのが、不完全ながらも最善である」、というものです。これは、しばしば政治的意思決定の方法において民主主義が最悪でありながらも最善であるという結論に類似しています。



1.ステークホルダー主義の問題点

ここで、ステークホルダー(全利害関係者)主義とは、①組織運営が広いミッションをもち、②全ての利害関係者により会社がコントロールされるもの、とします。

このステークホルダー主義の問題点は、意思決定の非効率、ガバナンスの悪化にあり、それらに対しては資本市場を通じた制裁が与えられることになります。


・意思決定の非効率
船頭多くして船山のぼる、という言葉がありますが、全利害関係者が等しく企業に対してコントロール権を持つようになると、企業が意思決定を迅速に行い、事業を推進することが非常に困難になります。ジョイント・ベンチャーにおいて得られる利益が、単独事業によるそれよりも低いのは、この利害の一致が非常に難しいためですが、そうであれば、株主・債権者・労働者・その他利害関係者の利害を一致させることの難しさは推してはかることができます。利害を一致させるために費やされる人的・金銭的資源は相当なものになることでしょう。


・ガバナンスの悪化
企業経営者は私的便益を最大化させようとする誘引を持っています。サボる、接待の名の下に会社のお金を自らの娯楽に用いるなど、その形態は様々です。そうでない経営者もいるかもしれませんが、ここで話しているのは、より一般的な、人間は放っておけば自らの利益を最大化しようとするという事実で、いくつかの例外をもって否認出来る類のものではありません。

この様な私的便益追求の動機を持つ経営陣を、企業価値の最大化に向けて働かせるためには、明確な評価基準とそれに整合的な報酬契約が不可欠になります。Tiroleの本の大半は、経営陣を正しく動機づける条件(インセンティヴ両立条件)と、外部の資金調達を可能とする条件(貸手の参加条件)を成立させるような契約モデルの記述に費やされています。(このモデルが最高にクールなのですが、話が逸れるので省きます)

しかし、ステークホルダー主義が跋扈すると、経営陣を正しく動機づけるための評価基準を設定することが著しく困難になります。なぜなら、いわゆるステークホルダーの便益なるものは測定が非常に困難であり(株主利益であれば、損益計算書ですぐに分かる)、それは市場で明示的に評価されないためです。


・資本市場による制裁
株式市場は、こういった意思決定の非効率や悪化したガバナンスを、会社にかかるコストとみなし、そのコストを株価に織り込むために売買が行われる結果、株価が下落することになります。また、このコストは当然ながら企業利益を圧迫し倒産確率を高めるために、外部からの資金調達を必要以上に困難にさせます。かくして、ステークホルダー主義を掲げると、結果として利害関係者全員が保有することになる取り分が減少することになります。



2.株主価値重視は最高ではなく最善
 
この議論は決して株主以外の利害関係者の利益、たとえば、従業員、共同体、債権者の利益を無視するべきだ、というものではありません。Tiroleら多くの経済学者らは、その目的が誤っているということではなく、その目的を達成するためにステークホルダー主義を明示的に企業の目標とすることが誤っていると主張しているのです。利害関係者の利益を同時に追求することは上述の理由で企業価値を減じ、結果として全ての利害関係者が損失を被る可能性が高いのです。

現在のところは、株主の価値を最大化にするのを企業の目的としつつ、その他の利害関係者の利益は契約や市場構造の是正によって保護するのがとりうる選択肢の中で最善だろうというのが、本書をはじめとする多くの本が主張していることです。(事実Tiroleも、Shareholder-value maximazation is, of course, very much a second-best mandateと説いています)

利害関係者保護のための契約や市場については、例えば次のようなものが挙げられます:

・債権者の利益保護のための契約:
コベナンツ(財務制限条項)や、社債の株式への転換権などの株式価値と連動した資金調達の仕組みにより、債権者の利益を損ねないようにする。これがしっかりと機能するためには、当然ながら法制度が整備されていることが非常に重要

・従業員保護のための市場:
流動的な労働市場の提供により、解雇された労働者のかかる負担を減らす(労働市場の流動化の程度が低い場合には、レイオフの外部性は非常に大きくなるため、株主至上主義の是非について問題となりやすい。これは、ヨーロッパや日本において株主価値最大化がよく批判されることと整合的です)

(このことからも分かるように、利害関係者保護をも目的とした株主価値最大化が正当化できるか否かは、国家の発展段階にも依存しています)


ちなみに、時に見落とされがちですが、利害関係者の利益追求は、株主価値最大化の文脈から正当化出来ることもすくなくありません。この好例は従業員教育です。従業員へ十分なトレーニングプログラムを提供することは、従業員の利益となるばかりでなく、会社の長期的な業績を高めるために株式価値最大化にも資するものです。


反対・賛成の是非はさておき、こういった点を踏まえて政策や社会起業家の議論がなされると、もう少し話が噛みあって実りあるものになるのかなあ、と思います。
 
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