Taejunomics

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野口悠紀雄「ファイナンスの基礎」第七回。
いよいよファイナンスの基礎も佳境に入ってきました。 
今回は、SDF(Stochastic Discount Factor,確率的割引ファクター)について取り扱います。 SDFは、現代ファイナンス理論において最も重要な概念といっても過言ではありません。 CAPMもAPTもその他ファクターモデルも、ブラック・ショールズモデルも、このSDFという概念により統一的に理解することが可能です。

(ちなみに、SDFには他にも呼び方があり、プライシング・カーネル(PK)と呼ばれたりもします。他にもあるようですが、PKとSDFが最もよくある呼び名です。)

1.そもそもSDFとは何か
2.SDFを計算してみよう
3.SDFの値が意味すること


1.そもそもSDFとは何か

SDFとは、「ある状態における1単位のペイオフの割引現在価値」のことです。 
これだけだとあまりにも分かりにくいので、例を挙げましょう。


来年のこの日、不況の時に1億円を得られることには、今においていくらの値段が付けられるでしょうか。もし、答えが0.8億円なら、0.8は不況という経済状態におけるSDFになります。

逆に好況のときの2億円は、人々にとって1億円の価値を持っているとしましょう。この場合なら、好況という経済状態におけるSDFは0.5(SDFは1単位当たりの価格なので、1億/2億=0.5)になります。



来年が、好況か不況になるとして、それぞれ50%の確率で起こるとしましょう。 ここで、

・不況の時に2億円
・好況の時に1億円

をもたらしてくれる株式Aがあるとしましょう。この株式の価格はいくらになるでしょうか。 SDFのコンセプトを使って考えるとこうなります:

・不況の時の2億円は、現在においては、
2×0.8=1.6億円
の価値があり

・好況の時の1億円は、現在においては、
1×0.5=0.5億円
の価値があることになります。

 なので、不況と好況が50%で起こるので、この株式Aの価格は、

 1.6億円×50%+0.5億円×50%=1.05億円

となるわけですね。 
いうなれば、SDFを用いた価格付けは、

ある状態のペイオフ×そのSDF×その起こる確率  を全ての状態について足し合わせたもの

となるわけです。


例えば逆に、
・不況の時に1億円
・好況の時に2億円

をもたらしてくれる株式Bの価値は、

不況時のペイオフ×不況のSDF×不況の発生確率
+好況時のペイオフ×好況のSDF×好況の発生確率

=1億円×0.8×50%+2億円×0.5×50% =0.9億円

になります。


株式Aも、株式Bも、もたらすペイオフの期待値はともに1.5です。 ですが、ついてくる値段は、全然違うものになるわけですね。 そして、このことが各状態におけるSDFが違うことに起因していることは、ちょっと見るとわかると思います。

SDFは、ある状態におけるペイオフの現在価値なので、その状態におけるSDFが高いということは、その状態においては1円が持つ価値が高い事を意味します。 たとえば、SDFが高い状態、というのは、ひどい不況の状態などを意味するわけですね。 だって、不況の時の100万円は、好況の時の100万円より価値が高いからです。

なので、SDFは別名「経済の不快度」とも呼ばれています。すなわち、SDFが高い状態というのは、経済の状況が悪い事を意味し、逆は逆なのです。



2.SDFを計算してみよう

さて、上の例では、SDFを仮定してみましたが、SDFは、状態とそのペイオフ、そして、現在の商品の価格がわかっていれば、自動的に計算することが可能です。

価格=ある状態におけるペイオフ×そのSDF×その生起確率 を足し合わせたもの

です。 ここで、SDFをξ(グザイと読みます)として、ペイオフをXとして、生起確率をPとすると、

価格=ξXPを足し合わせたもの

になります。ある値について、それぞれ生起確率を掛け合わせて足し合わせたものを期待値と言うので、(確率で加重した平均値と言ってもいいです)

価格=ξXの期待値=E(ξX)

となります。E( )は、期待値を意味するカッコです。

よって、

価格=E(ξX)

となります。 この式は、Fundamental Equationと呼ばれています。 全ての金融商品は、この方法で価格付けすることができます。

さて、では、実際の数値例を用いて、SDFを計算してみましょう。
前回も使った、この数字例にします。

option.jpg


SDFを求めてみましょう。 連立方程式を立てたら、求めることができます。


国債の価格=状態1におけるSDF×ペイオフ×確率+状態2におけるSDF×ペイオフ×確率

なので、

国債の価格=1=1.5×ξ(1)×0.5+1.5×ξ(2)×0.5

同様に、

株式の価格=1=3.5×ξ(1)×0.5+0.5×ξ(2)×0.5

なので、後は、連立方程式を解けば答えを求めることができます。 結果は

ξ(1)=4/9
ξ(2)=8/9

となります。 設問においては、状態2において株式のリターンが悪い様なので(すなわち不況といえるような状態)、状態2においてSDF,ξ、が高いことは直感的にもよくわかりますよね。




3.SDFの値が意味すること

結論から言うと、こうなります:


命題:
1)すべての状態におけるSDFが正なら、市場において裁定機会(Arbitrage opportunity)は存在しない
2)すべての状態におけるSDFの値が唯一(unique)のものとして決まるのなら、市場は完備(complete)である



まず、単語の説明。

・裁定機会については、前回説明しましたね。

・解がuniqueというのは、例えば、ある方程式を解く値が一つだけに決まる、ということです。
例えば、(x-2)(x+5)=0を解くxには、2と-5の二つがありますが、(x-2)(x-2)=0なら、解はx=2だけで、この場合xはユニークな解を持っています。 

・市場が完備というのは、世の中の状態の数だけ、異なる証券が存在することを言います。 たとえば、上で上げた数事例では、世の中の状態の数は2で、異なる証券の数も2でした。 だから、上の例題においては、市場は完備であるわけですね。

ちょっとややこしいのですが、ここで、「異なる証券」というのは、その証券のもたらすペイオフが、他の証券によって複製できない事を意味します。 
たとえば、飲み物の例になりますが、

カシスオレンジ、オレンジジュース、カシスが存在する時、異なる資産の数は、2つしかありません。 

なぜなら、カシスオレンジは、オレンジジュースとカシスで複製できるからです。 (ここから分かるように、完備市場、というのは現実にはなかなか存在しにくいものではあります。)


MITのStephen Rossは非常にエレガントな形で上の二つの命題を証明しています(Ross先生は、込み入った問題を非常にエレガントな形で解くことについて本当に天才的だと思います)。 その内容を知りたい方は、例えば、池田先生の教科書を読むか、アセット・プライシングを受講してください。 Stiemke’s Lemmaというベクトル計算における補題を使うので、ファイナンスの基礎の範囲からは明らかに外れていますので割愛します。


授業では、数値例を用いて、上の事柄を確認していくことになると思いますが、それはまた次回。


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