Taejunomics

            政治、経済、社会、哲学、芸術、文学、スポーツ、マイクロファイナンス、教育などなど、徒然なるままに書き綴ります。 ※お初の方はカテゴリー欄の「Taejunomicsについて」、をご覧ください。
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「豊饒の海」全四巻、読了。
 移動時間やらなにやらに読みきりました。

暁の寺 暁の寺
三島 由紀夫 (1977/10)
新潮社

 
天人五衰 天人五衰
三島 由紀夫 (1977/11)
新潮社

 

 
 この豊饒の海は、三島由紀夫の最後の作品で、彼の思想の多くが詰め込まれた作品といってよいのでしょう。 物語は主人公が輪廻転生を繰り返すことによって続いていきます。 
 そして、最後の作品、天人五衰によって、物語は終局を迎えます。
                                        
 五衰とは、天人(天使)の死が近づいてきたときに見られる兆候のことです。 ここで、天人とは、豊饒の海に登場してきた主人公たち(彼・彼女らは輪廻転生を繰り返してきた一人の霊魂と考えられています)のことだと思われます。 この世のものとは思えない純粋な思いや姿をもって生まれてきた主人公たちですが、最後の主人公である透において、天使殺しがなされます。 いうなれば、透は、この物語の中において、天使から普通の人間へと引きずり落とされるのです。 天人が享けてきた、20歳において死ぬという運命から、多くの代償を支払いながらも透は外れたのでした。 
 天人の存在を許さないものこそが人の世の中で、ここでは、特別に秀でた人間や特別な恩恵にあずかっている人はそのまま生きることを許されず引きずりおろされるのだと、作者は主張します。 晩年になりその作品の評価がどんどん落ちて行った三島由紀夫の、社会に対する恨みつらみも、この主張にこもっているのかもしれません。
 
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 「あなたは歴史に例外があると思った。 例外なんてありませんよ。 人間に例外があると思った。 例外なんてありませんよ。
 この世には幸福の特権がないように、不幸の特権もないの。 悲劇もなければ、天才もいません。 あなたの確信と夢の根拠は全部不合理なんです。 もしこの世に生れつき別格で、特別に美しかったり、特別に悪だったり、そういうことがあれば、自然が見逃しにしておきません。 そんな存在は根絶やしにして、人間にとっての手厳しい教訓にし、誰一人人間は『選ばれて』なんかこの世に生れて来はしない、ということを人間の頭に叩き込んでくれる筈ですわ。」


 
 このようにして輪廻転生を繰り返した天人に死が言い渡されるのですが、物語の最後にはさらにとてつもないどんでん返しが待ちうけています。 第一巻に登場し、その後仏道を歩き門跡となった聡子により、輪廻転生そのものさえも、否定されるのです。
 
 
 天人の輪廻転生により織りなされてきた物語の終焉において、その二つともが否定されるというのは、衝撃的な終わり方ではありましたが、同時に戦慄を覚える終わり方でもありました。 三島由紀夫は、間違いなく天才でした。


 その主張内容はさておき、物語のスケールと構成、日本語の美しさにおいて、日本現代文学における金字塔ともいえる作品だと思います。 興味のある方は、GW期間中にでも是非ご一読してみてください。

 
「今にして本多は、生きることは老いることであり、老いることこそ生きることだった、と思い当った。 この同義語がお互いにたえず相手を謗って来たのはまちがいだった。 老いてはじめて、本多はこの世に生まれ落ちてから八十年の間というもの、どんな歓びのさなかにもたえず感じてきた不如意の本質を知るにいたった。
 この不如意が人間意志のこちら側またあちら側に現れて、不透明な霧を漂わせていたのは、生きることと老いることが同義語だという過酷な命題を、意志がいつも自ら怖れて、人間意志自体が放っていた護身の霧だったのだ。歴史はこのことを知っていた。歴史は人間の創造物のうちでもっとも非人間的な所産だった。それはあらゆる人間意志を統括して、自分の手元へ引き寄せながら、あのカルカッタのカリー女神のように、片っぱしから、口辺に血を滴らせて喰べてしまうのであった。」
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