Taejunomics

            政治、経済、社会、哲学、芸術、文学、スポーツ、マイクロファイナンス、教育などなど、徒然なるままに書き綴ります。 ※お初の方はカテゴリー欄の「Taejunomicsについて」、をご覧ください。
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それでもバーナンキはイエスと言う。
バーナンキのスピーチ、"Liquidity Provision by the Federal Reserve"が非常に興味深かったので、内容を要約&僕の知識を追加して紹介することにします。

http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/bernanke20080513.htm



1.中央銀行が市場に流動性をする際の原則
2.今回の危機の性質とそれに対応した政策
3.モラルハザードへの対処としての規制


1.中央銀行が市場に流動性をする際の原則
Walter_Bagehot.jpg100年以上前のイギリスのジャーナリストWalter Bagehot(写真はWikipediaより引用)の主著である"Lombard Street″の一説を引用して、バーナンキは、中央銀行の主要な役割は市場に信頼(confidenceなのですが、うまく訳せません)をもたらすことであり、それは今も変わっていない喝破します。 この信頼とは、債権者が自身のお金を返してもらえる、というシステムへの信頼です。

この信頼はとても重要だという点に僕も同意します。
Diamond and Dyvig (1983)は、銀行の取り付けモデルを提示し、信用危機は一つのナッシュ均衡(市場における各プレーヤーの行動が、他のプレーヤーの行動に対して合理的な行動になること)たりうることを示しました。 これは、視点を変えると、「少しの市場心理の変化により信用危機は簡単に起こりうる」ことを示しており、システムに対する信頼が金融市場を保護するのに非常に重要だという事を示しているとも言えます。 川本裕子さんも、この信頼の重要性をよく話していました。

その維持を民間金融機関で行うことは、必要以上にコストがかかり金融機関の運営の効率性を損ねるため、中央銀行が役割を果たすべきであり、それは、程度の差こそあれ、100年前のイギリスにおいても今の世界においても変わりはないとバーナンキは説きます。

バーナンキは引き続き、危機の際の中央銀行の金融機関への融資は高い利子率とともに行うべきだというBagehotの言葉を引用し、その意味について考察しています。 多くの場合、この高い利子率は、借り手である金融機関のモラルハザードを防ぐためのものだと考えられていますが、バーナンキはBagehotの真意はそこにはなく、むしろ、貸出の必要以上の増加により中央銀行の資金が枯渇してしまう事を防ぐことにあると指摘します。



2.今回の危機の性質とそれに対応した政策

今まで、市場の流動性を保つために欧米の中央銀行が行ってきた政策は、公開市場操作でした。 これは、中央銀行が市中で債券の取引に参加することにより、民間金融機関の資金リザーブと市中金利を調整するというものです。今回の危機に対して、ヨーロッパの金融機関は、今までと同様の方法で問題に対処しました。

FRBの公開市場操作に対してアクセスできる金融機関は限られていること、また、ヨーロッパの金融機関に対してFRBの保有しているリザーブは低いという問題がありましたが、それでも従来FRBも公開市場操作を中央銀行の政策として行ってきました。
しかし、特に今回においては、事情が異なっていました。 それは、バーナンキの言葉を借りると、「汚名(Stigma、もともとはキリストの体につけられた傷のことです)」でした。 民間金融機関は、中央銀行から低い金利で借り入れることによる「あそこはやばいんじゃないか」という風評の低下(Stigma)を恐れました。そのことにより、中央銀行の従来の政策の効果は薄れ、新しいイノベーションが必要だったとバーナンキは指摘します。

そこでFRBが採ったアクションは以下のようなものでした:
1)金利の引き下げと90日までの融資を金融機関へ提供
2)金融機関が保有している証券化商品(これがサブプライムショックの源泉です)と短期国債との交換
3)金融機関への貸出条件をオークションさせる機関(Term Auction Facility)の設置


1)と2)の説明は省略するとして、3)は経済理論的にも秀逸だと僕は思います。なぜなら、この仕組みにより、公開市場操作の効果の限定性をある程度克服しているからです。 

貸付条件をもしFRBが一方的にオファーしてしまうと、先に紹介した風評リスクが存在することになり、金融機関は、厳しい状況にあってもなかなか借り入れることができません。 しかし、その貸付条件がオークションによるものであれば、借手である金融機関はある程度までは適正な条件で借入を行ったのであると周囲から評価されるため、風評リスクをある程度まで下げることが可能となるわけですね。 



3.モラルハザードへの対処としての規制

皆さんご存じのように、この期間にとったFRBの一連のアクションの中には、Bear Starnsの救済(の手助け)も含まれていました。 このことに対しては、多くの批判があります。 主要なものを二つ挙げると、
1)金融機関だけが特別扱いされる事への批判と、
2)この救済により、金融機関のリスク管理体制が薄れるのではないかという批判
です。 

1)について、金融機関だけが特別扱いされるのは確かに公平感から問題があるのかもしれませんが、現状において、金融システムがストップしてしまうと、それは他の産業に対しても多大なダメージを与えることを考えると、一度危機に陥った時には、しかるべき救済アクションがとられることは正当化されるのだと思います。

2)については、経済学者の間でも論争があるところですが、バーナンキは、このモラルハザードを抑えることは、監視と、自己資本比率規制などに代表される規制に求められるべきものだと説明します。 

僕は、この説明は少し苦しいと感じています。

次のような例を考えてみましょう。 どっちが、火事の起こるリスクが低いでしょうか。
(正確ではないのですが、「救済されうる」という安心感がもたらす非効率性をイメージする助けにはなると思います。)

A.大家さんは、テナントが火事を起こさないように監視するとともに、家を耐火構造(自己資本を一定比率保有するということは、ショックに対する耐性を高めることを意味します)にさせる。 ただし、テナントは、自分が火事を起こしても助けてもらえることを知っている。

B.大家さんは基本的に自由放任。 ただし、テナントは自分が火事を起こしても助けてもらえる保証はないと考えている。

事後的な監視や規制によって抑えられるモラルハザードの程度は限られているのかもしれません。


とは言うものの、救済について政策立案者がやるべきことは、救済しない時に生じる被害と、救済した時に生じるマイナスの比較考量であって、現状においては、救済措置をとったのちに後顧の憂いについては別途対処しよういうアクションがベストだったと僕も考えます。

また、一連の出来事は、中央銀行のリーダーシップの取り方一つで、どこまで危機がマネージできるのかという事をよく示していると思います。 ぜひ、世界の中央銀行総裁で勉強会とかをして、リーダーシップと理論的理解の底辺ラインを揃えていただきたいです。

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